[ 2025年 6月 24日付 ]
ハイエンドオーディオ担当の"ichinose"です。
今回は、アキュフェーズから発売された、FMチューナーの新製品『 T-1300 』をご紹介いたします。
2018年に発売された「T-1200」が最後のハイエンドチューナーだと思っていましたが、さすがアキュフェーズ! 他のブランドは既に撤退していますが、FMチューナーにもまだやることがあったんですね!
◆アキュフェーズは創業以来絶えず、FMチューナーを進化させてきました。
1957年に放送が開始されたFM放送は、流行曲に限らず、あらゆるジャンルの名曲や名演奏といった歴史的に残る音楽とともに、地域のイベントなどの生活に密接した地元密着型の情報を発信するメディアとして、60年以上にわたり人々に愛されています。
また、最近では若い世代からも注目を浴びているアナログ・レコードの紹介番組も増え、幅広い世代から支持を集めています。
アキュフェーズでは広帯域、高音質なFM放送の特長に早くから着目し、1972年の会社創立と同時にFMチューナーの開発をスタートさせ、翌年の1973年には記念すべき初代モデル「T-100」を発売し、その後も現代に至るまで絶えずFMチューナーを世に送り出しました。
※「T-100」は創業者(高周波に強いトリオ出身)のノウハウをつぎ込み、1973年当時としては超高額(135,000円)な製品でした。
ところが1990年代以降、CDなどのデジタル・メディアの普及により、FMチューナーの製作に必要な多くのアナログ部品の入手が困難となってしまいました。
そこで、長年培ってきた高周波テクノロジーに独自のデジタル技術を融合させ、入手が困難な部品の自社開発に着手し、2005年に新たな方式のFMチューナー「T-1000」を発売。
その後も進化を重ね、2010年に「T-1100」、2018年に「T-1200」を発売し、世界各国から高い評価を得ています。
アキュフェーズのFMチューナーは最新の高周波テクノロジーと最先端のデジタル技術を融合し、かつてのFMチューナーとは全く違うアプローチをしています。
◆最新モデルとなる「T-1300」の特徴、最新の技術を搭載
・妨害波対策を徹底した『 2段複同調回路 』のフロントエンド
・中間周波数信号を得る『 ダブル・スーパー・ヘテロダイン 』方式
・純度の高い信号が得られる『 DDS局部発信器 』
・混信時に威力を発揮する『 可変IF帯域フィルター 』
・反射波を軽減する『 マルチパス・リダクション(MPR) 』
・低ひずみ率・低雑音特性の『 デジタルFM復調方式 』
・2回路並列MDS変換方式D/Aコンバーター
◆中間周波数(IF)段以降のDSPによるデジタル信号処理
・『 可変IF帯域フィルター 』
・『 マルチパス・リダクション機能 』
・『 デジタルFM復調 』
・『 DS-DCステレオ復調 』
フロントエンドの高周波増幅部に低雑音デュアル・ゲートMOSFETを、複同調回路に巻き数比を最適化したスペース巻RFコイルを採用することで、感度やS/Nを大幅に向上させています。
もちろん、FM補完放送(ワイドFM)にも対応し、デジタル出力端子(同軸COAXIAL・1系統)を装備しています。先進のデジタル・テクノロジーに、長年培ってきたアナログ高周波技術を融合させ、高音質なFM放送をお楽しみいただけます。
◆大入力妨害信号に強い『 2段複同調回路 』のフロントエンド
フロントエンドは微弱な電波の選局はもちろん、電界強度の強い放送局に対しても、混信やひずみの発生を抑えながら中間周波数(IF)へ変換することが重要です。高周波増幅器の前に選択度特性の良い複同調回路を搭載し、混変調やブロッキング現象などの大入力妨害信号を予め防いでいます。
さらに高周波増幅器の後にも複同調回路を配置した『 2段複同調回路 』により、良好な感度と選択度を確保。
ミキサー部は差動入力『 ダブルバランスドミキサー 』を2段で構成した『 ダブルスーパーヘテロダイン 』方式を採用し、妨害信号の侵入を防止しながらIFへ変換します。
画期的な『 DDS(Direct Digital Synthesis) 』方式局部発振器ミキサーでは受信信号と局部発振器の信号を混合して中間周波数(IF)に変換。
通常の「PLL(Phase Locked Loop)」回路は帰還により周波数を安定させるため、周波数変調成分が残ってしまいSN比が悪化する欠点がありました。
DDSでは、水晶発振器の出力を分周して作り出したデジタル信号で正弦波データを読み出し、D/Aコンバーターでアナログ波形を作り出すため、周波数変調成分が発生せず、極めて高いSN比を実現する高純度な信号を生成できる画期的な回路です。
◆混信時に威力を発揮する『 可変IF帯域フィルター 』
《 可変IF帯域フィルター:BAND WIDTH 》機能は、フィルターの中心周波数に対して、IF帯域幅を6段階《 50,75,100,150,250, 500kHz 》に切り替えて選択することができます。
IF帯域幅は広い方が特性上有利になりますが、帯域を狭めて受信することにより、ノイズを避けた受信や、隣接放送局との混信によって、埋もれていた希望放送局を拾い出すなど、妨害電波を避け、混信を軽減した良質な受信が可能となります。
このIF帯域幅を可変するIF帯域フィルターに、完全直線位相特性の『 FIR(Finite Impulse Response)型デジタル・フィルター 』を採用し、IF帯域フィルターの位相ひずみを限りなく少なくすることに成功。
◆反射波を軽減する『 マルチパス・リダクション機能 』
マルチパスは、送信所からの電波が、複数の経路で受信アンテナに達する伝播現象を言います。FM放送を各家庭で受信する場合、送信所からの『 直接波 』と、山やビルなどにぶつかって少し遅れてくる『 反射波 』が同時に入ってきます。
『 直接波 』と『 反射波 』を同時に受信すると、受信した信号にひずみや雑音が発生し、良好な受信ができません。
浮動小数点演算DSPによる高精度なデジタル信号処理により、マルチパス信号の中の『 反射波 』を抑制する画期的な『 マルチパス・リダクション(MPR)機能 』を搭載、適応型フィルターの技術を応用して実現。
妨害波を大幅に抑制し、『 直接波 』だけを受信することで、高品位な音声出力を可能にしました。
◆低ひずみ率・低雑音特性を実現した『 デジタルFM復調方式 』
FM復調部は、音声出力のひずみ特性と雑音特性を左右する、大変重要な部分です。このFM復調方式は、まずデジタル化されたFM波の虚数成分を実数成分で除算することにより、位相角(θ)の正接(tangent:タンジェント)成分を抽出します。
それを逆正接(arctangent:アークタンジェント)演算することで位相角が得られます。さらに微分演算によって位相角の時間変化を取り出すことにより、FM復調出力(オーディオ出力)を得ています。
◆ワイドFM対応
2014年にFM補完放送(ワイドFM)が開始されたことに伴い、受信可能な周波数は76.0〜95.0MHzとなっています。AM放送の難聴地域でも、ワイドFMを受信することでAM放送局の放送を高音質でお楽しみいただけます。
◆DSPによる理想的なステレオ復調回路『 DS-DC 』
ステレオ復調部には、アキュフェーズ・オリジナルのDS-DC(Direct Synthesis - Double Cancellation)方式を採用。
DS-DCは、下記2つの技術で構成、全ての処理をDSP上のソフトウェアにより演算を行うことで、演算誤差の少ない理想的なステレオ復調を可能とし、驚異的なチャンネル・セパレーションを達成しました。
@パイロット信号の直接合成処理 : Pilot Tone Direct Synthesis
一般的なFMチューナーは、パイロット信号を抽出するのにPLL回路を使用して、入力信号(被ステレオ変調信号)から周波数と位相成分を抜き出します。このため、抽出時にパイロット信号が小さくなると、雑音の影響を受けてセパレーションが非常に悪くなってしまいます。
DS-DCは、入力信号に含まれるパイロット信号の波形をそのまま同定(※)して、DSPの演算によって直接作り出します。したがって、ノイズに強く(ノイズに埋もれた中からでも、確実にパイロット信号を作り出すことができる)、パイロット信号のレベルが小さくてもセパレーションを確保できます。
※同定:Identify(ある物をある一定の物として認めること。あるものとあるものの同一性を認めること。)
Aクロストークの二重打ち消し処理 : Crosstalk Double Cancellation
入力信号を左右(L/R)信号に分離した後、位相成分まで考慮してクロストークの打ち消しを2回行います。これにより、左右のセパレーションを極限まで高めることができます。
◆最新の『 MDS変換方式D/Aコンバーター 』搭載
出力のコンバーターに、性能や音質に優れた『 MDS方式D/Aコンバーター 』を搭載。MDS方式は、刄ー(デルタ・シグマ)型D/Aコンバーターを複数個並列接続することで、大幅な性能改善を図った画期的なコンバーター。
刄ー型D/Aコンバーターを複数個用意して、全てのコンバーターに同一のデジタル信号を入力、各コンバーター出力を加算して全体の出力としています。全体の出力では、信号成分は単純加算されますが、変換誤差は相互に打ち消される可能性がありますので、単純加算した値よりも多少小さくなります。
このため、信号と変換誤差の比が大きくなり、変換精度やSN比、ダイナミック・レンジ、リニアリティ、高調波ひずみなど、コンバーターにとって非常に重要な特性を一挙に向上、コンバーター数をnとすると√n倍に向上させることができます。
性能・音質に優れた刄ー型D/Aコンバーター「AK4490REQ」旭化成エレクトロニクス社製を2回路並列動作させており、コンバーター1回路の場合と比較し、全体の性能は約1.4(=√2)倍に向上!!
MDS方式による性能向上は、信号周波数や信号レベルに関係なく働きますので、従来の刄ー型D/Aコンバーターで解消の難しかった出力信号にまとわりつく微小レベルの雑音も、同時に低減することに成功しています。
◆アナログ・フィルターに『 Direct Balanced Filter回路 』搭載
D/Aコンバーター出力の高周波領域には、必ずイメージ・ノイズが発生します。「T-1300」のような広帯域システムでも、超高域のイメージ・ノイズは除去するために、アナログ・フィルターが必要になります。
フィルター回路には、通過域の周波数特性が極めてフラットな4次のバターワース型アナログ・フィルターを搭載、ライン/バランス回路の動作時の干渉を防ぐため、それぞれ独立した構成の理想的な「LPF(Low Pass Filter)」を採用。さらにバランス出力の場合は、バランス合成回路とフィルター回路を、D/Aコンバーター出力からバランスのまま直接一段で構成しています。
この構成によりラインとバランス出力《 + − 》を全て同じ回路で独立させるとともに出力が《 + − 》対称型にできるため、『 MDS出力 』を理想的な形でバランス伝送することができます。
このフィルター回路は、カットオフ周波数の最適化とフラットな通過域特性により通過帯域内の位相の回転を最小に抑え、厳選された素子と相まって、優れた音楽再生を可能にしました。
◆担当者より
近年、FM放送をお聴きになるオーディオファイルが少なくなっているとは言うものの、FMでは貴重なソースが放送されることもあり、数少ないアナログソフトとして、まだまだオーディオファイルに楽しんでいただけるカテゴリーだと思います。
2018年に発売された「T-1200」が最後のハイエンドチューナーだと思っていましたが、7年の開発年数を経て遂に「T-1300」が発売されました。
「T-1200」と「T-1300」のスペックの比較(改善点)をしてみると細部にわたるチューニングが施されており、FMチューナーにもまだやることがあったんだと実感いたしました。
・MONO実用感度:9dBμV→5dBμV(どの程度低い電波まで受信できるか)
・周波数特性:10〜15,000(+0,-2dB)→10〜15,000(+0,-1dB)
・SN比(85dBμV入力、A補正):76dB→78dB
FM放送という今となっては希少価値のあるソフトにも、価値を見出して新製品を出し続けてくれるアキュフェーズは"日本オーディオ界の至高ブランド"と言えるのではないでしょうか。
現在入手出来る、世界で最高に音質の良いFMチューナーとしてお勧めいたします。



















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